<<<救急車>>>

                          


         

1月8日、新学期が始まったばかりだというのに頭痛を訴え
学校を休んだ息子を女医さんのところへ連れて行ったのですが、
年末年始の食べすぎが原因か、インフルエンザの季節だからか、
待合室には入りきれない人がいるほどの混雑ぶりでした。


イタリアでは自分の住む地域の公認された医師のリストから
好きな?医師を選びホームドクターとします。
Medico di famigliaと呼びます。

で、いつも最初はその先生のところへ行き、
特別な検査や専門の医師が必要なときもその先生の紹介状を持っていくのです。
そういう経路を通さないと健康保険が利きません。

薬は処方箋を持って薬局へ買いに行くので、
普通の診療や処方箋を書いてもらうだけならお医者へ行ってもお金は1銭も払いません。

薬も厚生省の認可した薬なら最低1エウロ(約150円)のチケット代だけ
チケット代もころころかわりますが・・・
薬によっては値段の10%を払うなどといろいろです。

ただ、この認定の薬というのがまたころころ変わり、
先月は1エウロでもらえたのに今月から
全額払わねばならないというようなことがままあります。

事実、私が常用している効ヒスタミン剤も昨年の4月までは
チケットだったのが、枠から外れていまだに全額支払です。

TVの健康番組で、最近はアレルギーに悩む人が多いのに
効ヒスタミン剤が有料というのはどういうことですか、と
厚生省のお役人に質問したところ、
同じような効果のあるコルチゾーネの入った薬を
認定しているからという答えでした。

私には両者が全く同じものだとは思えないのですが・・・


さて、待合室に話を戻しますと、
運良くいすに腰をかけて待っていたのですが、
それまで静かだった待合室に二人の女性が入ってきて、
スクールバスの値上げの話を大声で交わしはじめました。

そういう時、イタリア人は黙っていることができずに
賛成の人も反対の人も
(今回は話題が値上げなので賛成者はいないと思いますが、
まあ仕方のないことであろうというくらいの意見は出ます。)
自分も一言という感じで、一気にその場が生きた掲示板になってしまうのです。

そのころまでにすでに40分ほど待っておりました。
ああうるさいなぁと思い、なるべく関心をそらしていたのですが、
急に息苦しくなってきて、深呼吸を繰り返していたところ、
誰かが気づいて
「あなた具合が悪いのですか? だったら列を飛ばしてみてもらいなさい!」

別の誰かが、「早くノックして先生に知らせなさい!」
などなどの声が聞こえていました。

で、すぐに先生が出てきて
「あはーん、先に見てもらいから気分が悪くなったのね。
しょうがないなぁ。誰かと思ったけどまさかあなただとはねぇ。」
などと冗談を言いながら、私を抱え診療室へ。

先にいた人も終わったところですぐに出て行きました。

すぐに指先から少量の血をとって検査し、
血圧を測ってこれという異常はなし、
「ストレスかなぁ。何か心配事でもあるの?
泣き出したくなるようなことは?(イタリアにもうつ病患者は意外と多い)
とにかくもっと精密な血液検査をしましょう。
ここに書いた検査をして又来てください。」

そうして自分で歩いて診療所を出て、
すぐそばの保健所へ血液検査の予約を入れるために行きました。

そこで待っている間に又気分が悪くなり、
息子の肩に寄りかかっていると、又誰かが
「あなた気分が悪いんですか?だったら列を飛ばして先に行きなさい!
息子さんを行かせなさい。何か言う人がいたら僕が答えてあげるから!」
そして大声で、列を作っている人たちに
「その子を列の最初に入れてあげなさい!!お母さんの気分が悪いんだから!」

私は何も言う隙がありませんでした。
さっきの診療所でもここでも人の困難を黙って見捨てて置けない人が
たくさんいて、また日本のようによけいな遠慮をする人はいなくて
必要なときには素直に人の力を借ります。

正直なところちょっと恥ずかしかったのですが、
そのうち手足がしびれてきて座っているのもおぼつかなくなり、
気が付いたときにはその保健所にいた別の女医さんが、
両足を高く持ち上げ、しきりに「深呼吸をしなさい。」
といっていました。ほんの少しだけ意識が遠のいたようです。

その後は意識はしっかりしていたのですが、
どうしても両手足の痺れが治まらず、口の周辺もしびれてきて、
そのままいるとどんどんしびれるような気がして
取り留めのないことをしゃべり続けました。

もう一度血圧を測ったら上が80で下が64とかで少し貧血気味だったようです。

誰かが自分の携帯電話で家にいた主人に連絡を取ってくれたので、
程なく主人も駆けつけてくれましたが、
そのころには女医さんが救急車を呼ぶことに決めていて、
(彼女の立場としては万が一のことがあってはいけないと思ったのでしょう)
一応主人の到着を待って了解を得てからということだったのですが、
主人はあわてて駆けつけたところに女医さんがそういうものだからすぐに承諾して、
ついに私は救急車に乗せられすぐ近くの病院へ運ばれました。

両手足と口の周りがしびれたのは今回が初めてではありません。
年に1,2回こういうことがありますが、
すぐにベッドに入って暖かくしていると治まったので、
自分では心配していなかったのですが、
今回は外で起こったので大げさなことになってしまいました。

とにかく、救急病院の暖かい部屋でまたいろんな検査をしているうちに
しびれもなくなり、医師はもっと詳しい検査をするために
数日入院することを勧めましたが、私はうちに帰りました。

とても今入院している場合ではありません。



翌日、テレビのニュースで、ロンバルディア(北部)で
救急車に乗せられたものの、空いた病室が見つからず32件もの病院に断られ、
やっと受け入れてくれるところが見つかったときには危篤状態で、
程なく亡くなられたという事を聞き、私は運がよかったんだなぁと思いました。

たまたまあの日親切な人たちに出会えて・・・

<管理人:恵子>

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