ワインレポートその1
作られるワインから創られるワインへ?
昨夜ショッキングなレポート番組を見ました。
私がイタリアへ来る少し前(1985年)に起こった事件だそうですが、
なんとワインの中にメタノールという物質(燃料)を混入したというのです。
シチリアのワイン会社のひとつがこういう無謀なことをし、
当然ながら19名の犠牲者が出た気の毒な事件です。
もちろんすぐに原因究明に乗り出し、
その後はワインの検査がぐっと厳しくなったというのですが、
その事件でイタリア産ワインの輸出に大いなる痛手をこうむったのは否めません。
名前の回復に10年以上を費やしました。
その報告と共に現在のワイン検査の模様や、実態を追求調査していたのですが、
これまで私を含めた一般の人々はワインはぶどうを搾って熟成させただけの
飲み物と思っていたのですが、どうやら物によってはかなりの添加物が入っているそうです。
あまり驚かないでください。
これらの添加物は食用として使われる無害なものですし、
全てのワインに使われているわけでもありません。
そして昨今、世界中で言われている癌の予防作用などの報告は
現在のこういうワインをテストしてもたらされた結果ですから。
まず、なぜメタノールを混入させたかというと、
ワインのアルコール度を上げたかったということです。
普通アルコール度を上げるには砂糖を追加します。
これは日照時間の少ないヨーロッパの他の国々では当たり前の事として行われています。
でも、お砂糖よりも単価の安いもので同じ効果を生み出すためにメタノールを使ったそうです。
ワインはイタリア人にとっては毎食時に欠かせない飲み物で、
庶民には安価で求められることも大切な必須条件なわけです。
そこで、売り上げのみを考えたワイン業者がこういうとんでもないことをしたわけです。
現在ワインの品質検査は、日本風に言うと商工会議所のような機関で
名前を伏せたワインを数名の審査員がまず色、香りを見てそのあと試飲します。
どのワインが一番か、などという審査ではなく、
ワインと呼ぶにふさわしい品質かどうかと言うものです。
ここでOKが出るとワイとして販売することができます。
でもこのほかに民間の機関で、ワインの評価をしているところがいくつかあり、
一番有名なのは 「Gambero Rosso」という、フランスなら「ミシュラン」にあたる
レストランなどのガイドブックを出版したり、
料理番組を組んだり料理教室を開いたりしているところです。
先ほどの商工会議所の検査ではOKだったワインもガンベロ・ロッソでは
落とされてしまうワインがたくさんあります。
ここの審査員たちは、時期になると一日に70種類ものワインの試飲をしなければならないそうで、
素人考えながら最初のほうのワインと最後のほうのワインを同じコンディションで
果たして検査できるものだろうかと心配になります。
もちろん試飲と言っても飲んでしまうわけではなく、口に含むだけで吐き出してしまうのですが・・・
そのガンベロ・ロッソに見切りをつけ、自分の会社を起こした人がいます。
彼は自分が審査をしていた頃に、何度か不合格にしたにもかかわらず、
ガンベロ・ロッソの雑誌のスポンサーになっている会社のワインが堂々と
良質ワインとして記載されていたからというのです。
ありそうなことですね・・・
良質のワインを選ぶ目安としてはDOC(Denominazione Origine Controllata)
またはDOCG(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)
つまりそれぞれの産地で、確かにそこでできたワインだと証明すると言うものです。
しかし、これも厳密には守られていないと言います。
ワインの産地にはワインを瓶詰めにして売るだけの会社が存在し、
そういう会社は世界中のワインを買い集め、「enologo」と呼ばれるワインの
醸造や保存の専門家がミックスしておいしいワインにし、売り出すのだそうです。
勿論みながそうではありません。
自分たちの力でおいしいぶどうを作り、(一言で書いていますが、ぶどう作りは本当に大変です)
おいしいワインを提供しようとしているところのほうがずっと多いのですが、
イタリアでもどんな食べ物、飲み物も原材料を記載しなければいけないのですが、
ワインに関してはまだそういう決まりがないのだそうです。
例外的にアメリカへ輸出するものには記載が義務付けられていると言うことです。
2005年からはワインの収穫年号だけはどんなテーブルワインにも記載が義務付けられたとか。
ワインが今のようにあちこちへ流通するようになったのは最近のこと。
イタリアではワインを作ったその地域でほとんど全部消費していたので、
そういう必要がなかったのだと思われます。
自分たちのいつも見ているぶどう園で収穫されたぶどうを近所の農家や
ワイン工場でワインにしている、それを飲んでいたのですから。
ここ10年ほどは毎年おいしい甘いぶどうが収穫できたので必要なかったとのですが、
年によっては濃縮ぶどうジュースを混ぜて、色合いやアルコール度を高めるのだそうです。
そのほかに、柔らかなゴム状のあめを作るのに使用する薬剤だとか、
パンなどに使われる発酵剤を使用することもあるそうです。
生産者は毎年同じような品質を守るためにこうした工夫を凝らしているのだと言います。
大きな工場で生産されるワインにはそういうことも必要かもしれませんね。
購入する人達はあらかじめ知っている味を求めるでしょうし、
ころころ味が変わったのでは名前の意味がありませんから。
ある年配のenologoは、今や純粋なワインは農家で作る自家製ワインだけだとも言ってました。
ただ、この番組を見終わっての感想は、
あるテーブルワインの宣伝番組として作られたのではないかと言うこと。
何度となくこのテーブルワインの名前が出てきて(RAI treという国営放送なのに)
DOCなどのワインを高い高いとこき下ろし、締めくくりにおいしくて手ごろな価格のワインは
このテーブルワインしかないとのたまっておられましたから。
Keiko
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