生ハム賛歌

 

 

おいしい生ハムを食べることができるだけでもイタリアに住んでよかったと思う。

私が覚えている範囲で始めての生ハムとの出会いはまだ19歳の時だった。
あの頃人気のあったTV番組のひとつ「ごちそうさま」に出演することになり、神戸に行った。
朝早くから丸1日の撮影ということで、神戸には前日入りをした。

当時私は大阪府下に住んでいたので、神戸は近いといえば近いのだが、
よく知らなかったせいか、なんとなくエキゾチックな憧れの街だった。
そう、町ではなく街という字が似合うまち。

簡単な打ち合わせの後、
親切なスタッフが夕食をとるために夜の神戸の街を案内してくれた。
メインはギリシャ料理だったが、
その後に行ったパブでバーボンと一緒に食べたのが生ハムだった。

(19歳という年と、バーボンとの関係を気にしないようお願いします。
すでに働いていた私はいきがって強いお酒を飲んでいましたがもう時効だと思います。)

勧められるままに口にしてみた生ハムは、味はいいんだけれどちょっと水っぽい。
なぜなら缶詰だったから。

今でも旅行者が生ハムを買って帰国することはできないということだから、
30年もの昔、缶詰でも貴重であまり目にすることのない食べ物だったと思う。

とにかく私の中では生ハムとはこういうものだという記憶が残ってしまった。

そしてイタリアに住むようになり、食べた生ハムは全く違うものだった。
なんておいしいの! 私の求めていた食物はこれだわ!ということになる。

なんと生ハムの歴史は2000年前にもさかのぼるそうだ。

あの有名なカトーが友人と豚の飼育やそのモモ肉を塩漬けにすることなどを
話し合ったということなのでもっと古いかもしれないが、
メニューに記録が残っているものとしては、ローマのカピトリーノ博物館に

menù del giorno oltre a pullum (pollo) e piscem (pesce) anche perna (prosciutto).
鶏肉、魚とハム以外の今日のメニュー

という碑文があるそうだ。

生ハムにもピンからキリまでいろいろとあって、
やたらに塩辛かったり、匂いが気になったり、脂身がやたらに多かったり・・・

でも、好きこそ何とかですぐに見分けがつくようになった。
味見をしないでもハムの切り口をみただけで大体の味の見当がつく。

生ハムは豚のモモ肉に塩をすりこんで干したものだから塩辛くて当たり前なんだけど、
パルマとウーディネのサン・ダニエレのそれは塩辛くない。
他でも甘口(あまり塩辛くないという意味です)の生ハムを作っているだろうが、
なんといってもこの二つが有名。
パルマもウーディネもイタリアの北部に位置し、
きりっと引き締まった空気が生ハムを干すのに適しているということらしい。
最低12ヶ月は干しておく。

私は生ハムを買うときに自分の直感で決めたいから名前を見ないで
切り口の様子だけで判断するのだが、
得てして3回のうち2回はパルマかサン・ダニエレを買っている。

もちろん無名のものにもおいしいのがたくさんある。
食料品やさんの棚には何種類かのきりかけの生ハムが並んでいて、
最初の写真を見ていただきたいのですが、
はじめのほうはきれいな切り身が取れないし、硬いことが多い。

そして終わりのほうは筋が多くなってしまう。
そこでちょうどいい具合のところで、おいしそうなものを選ぶと
無印良品を選ぶこともままあるということ。 

甘口はいつでも大歓迎だけれど、時にはうんと塩辛いのもおいしい。
MONTAGNA(山の意)と総称されるやはり無印商品。
特に少し重厚な赤ワインがあったりしたら・・・

生ハムはもちろんそのままで、あるいはメロンを添えたり、
モッツァレラチーズと盛り合わせて前菜としていただく。
フォカッチャ(具のない白いピッツァ)に生ハムとイチジクをはさんだものも有名。


調理に使うこともあるけれどとても高価なので、調理用には
終わりの方の筋の多いところを安く売っているのを使うと経済的。
 

どこの家庭にも、たいていこの生ハムと何種類かのチーズは
いつも冷蔵庫に入っていて、ちょっとしたおやつやおつまみに備えている。

                        Keiko

 

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